sysphere*

Opus 27.7

 粘着質な音が室内に響く。視界を固く閉ざしているせいなのだろうか、小さなはずのそれがやけに耳に残り離れない。眦に涙が滲み、ひとすじの軌跡を描いて頬を伝った。時折漏れそうになる声を自身の指を噛むことで殺す。口内に鉄錆の味が沁みた。
 椅子に腰掛けたオルセリートの前跪きその性器を口に含んでいた男が、気付いたように視線を上げる。先走る液に濡れるくちびるをひと舐めしたあと、オルセリートの手を取った。
「オルセリート様、我慢なさらずともよろしいのですよ」
 歯型の痕の痛々しい白く細い手をひと撫ぜし、血の滲むそれに舌を這わせる。オルセリートの身体がひくりと反応したことに気を良くしたのか、キリコはそのまま指を付け根をひとつひとつ丁寧に、唾液を絡ませるように舐め取ってゆく。それはまるで今しがたまでの行為を彷彿とさせるもので──
「や、めろ……っ おまえは自分が何をしているのか判っているのか!」
 頬を怒りと羞恥で赤く染めながら、オルセリートは震える手を跳ね除けた。言葉を続けようとしたところで、性器へと添わされた手に引き攣った吐息が漏れる。思わず両の手で口元を覆って、意図せぬ快楽に抗うように鋭くキリコを睨め付けた。
「父上が、ラーゲンの薬を用いたことによるオルセリート様の御身について案じておりましたので……確認を」
 主の小さな抵抗にくすりと笑んで、キリコは性器へとくちづけ舌を這わせ答える。吐息がかかりまたひとつオルセリートの身体が震えた。指で扱かれ深く口に含まれ、耐え切れぬように短い嬌声が上がる。咄嗟に引き剥がすようにキリコの頭へ手をやるも、性器を強く吸われたことで却って押し付ける形となった。けれどそれに気付く余裕もなく、震える指はそのまま黒髪へと絡む。
 閉ざされた視界はダイレクトに快楽を伝わせた。唾液と精液の絡む音が聴覚さえも犯してゆく。オルセリートは弱くかぶりを振り耐える。けれど裏筋を舐め上げられ亀頭を強く舌が這い、音を立てて吸われたところで──堪え切れず高い嬌声と共に果てた。

 荒い息遣いが響く。目元を赤く染め上げ潤んだ視界のままオルセリートが顔を上げると、放たれたモノをこくりと飲み込んだキリコと視線が絡んだ。その眸がすうと笑みの形に細められ、見せ付けるように精液に濡れたくちびるを赤い舌がひと舐めする。
「量、濃さ共に申し分ありません。お世継ぎの問題は杞憂のようですね」
 言って、最後に軽く性器へとくちづけ乱れた衣服を整えた。
「っ、薬も何も、おまえを伴侶ともがらとしたのは僕の意思だろう……っ」
「ええ、そうでした。すべては我らが妄執のため──」
 差し出された手を取り忠誠を誓うように額付ける。血の儀式を成した右手。今は痕のないそこは、けれど二人を繋ぐ絆だった。
 そうして互いに手のひらを合わせるように指を絡ませ、昏く笑みを交わした。