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書きたいシーンだけ書く妄想切り抜き小話 01

 大きな手が、腫れた頬に瞼に触れる。血の滲むそこがチリと痛んだけれど、水に晒され冷えた指先が心地良くて──ナサナエルは離れゆくそれに、そっと小さな手を重ね合わせた。
「ナサナエル様」
「もう少しだけ、でいいから」
 手のひらに頬を擦り付ける。こうしてナサナエルに触れる者などこの男以外になく、あとはそう、先ほどの母のように。
 整えられた美しい爪に傷付けられた肌よりも、何より言の葉に裂かれた胸奥がじくじくと鈍く痛んだ。耐えるように眉根を寄せ、もう一たび男の手へと縋る。決して自身を拒むことのない、ただ一人の男へ。
「ナサナエル様……手当てを致しませんと、」
「いらない。母上はこの目がお嫌いなんだ。父う……ラーゲン様と違うこの目が。だから」
 いらない、と最後はくちびるだけで呟いて、ナサナエルは瞼を伏せた。