sysphere*

書きたいシーンだけ書く妄想切り抜き小話 03

 自室へと足を踏み入れる。知らず深く息が漏れた。窮屈な外套をキリコに預け、奥へと歩を進める。
 ああもう何もかもが煩わしい。苛立ちを振り払うようにブーツを投げ脱いだ。そのまま靴下も脱ぎ散らかしてゆく。解放された素足に滑らかな絨毯の感触が心地良い。また一つ息を吐いて、オルセリートは椅子へと腰掛けた。
「オルセリート様、小さな子供ではないのですから……行儀を弁えていただきませんと」
「おまえが片付ければ良い話だろう」
 襟元を緩めながら言い放つ。大仰に嘆息してみせるキリコを一瞥して、瞼を伏せた。視界からの情報を遮断するだけで疲労が軽減した気がする。聴覚にはキリコが収拾する衣擦れの音だけが響く。
 他者の気配のないこの部屋だけが、オルセリートに残された唯一の慰安の場だった。
 他者──いつの間にキリコの存在を当然のように許したのだろう。気付いたそれを捨て去るようにかぶりを振り、鈍く痛むこめかみを押さえた。