sysphere*
お題ったー 06
- 『 手と手の触れ合うお題ったー 』より『 ぎこちなく指に指を絡める|愛情 』
- ライロヴィ前提、船員×ロヴィスコ。ぬるい性描写を含みます。R-18
やわらかな厚みにその身を組み伏せる。両の手でそれぞれの手首を掴み押さえ付けた。抵抗を捩じ伏せるように強く。けれど男の予想に反して、ロヴィスコに抗う素振りは見られなかった。気勢を殺がれ、男は一つ二つと瞬いた。
「何の真似だ」
逆光で表情の見えぬ男の顔を見上げながら、ロヴィスコは低く問うた。
「判りませんか」
「相談があると、言ったのはおまえだろう」
男は自嘲気味に口元を笑みの形に歪ませる。そうしてロヴィスコの腕を解き、制服の上着へと手を掛けた。
「……最初は。本当に……船長に話を聞いてもらえればそれで、良かったんです」
身頃を寛げ、手のひらを滑り込ませる。
「でも……。ねえ……船長、」
釦を一つまた一つと外し、愛撫するように頸部へと触れた。そこには、くちづけの跡というには生々しい傷痕が在った。薄い皮膚の内側を赤黒く侵している、もの。
「好き、なんです。……船長、あなたのことが」
男が眉根を寄せ俯く。くちびるを震わせ小さく呟かれたそれに、ロヴィスコは目を細めた。
「──私は、おまえに応えることは出来ない」
「知ってます」
男がまた一たび嗤う。
「船長が医長と恋人同士なことくらい、皆知ってます。もちろん、俺も」
でも、と頸部の痕を撫で上げる。
「ならどうして──こんなことを赦すんです」
するりと撫ぜていたそれへと、きつく爪を立てた。ロヴィスコの柳眉が苦痛に歪む。
「あの男──ライツには身体を開くんですか」
「何を……莫迦な、ことを」
「『莫迦なこと』? 俺には、大事なことなんです」
言いながら、頸部から鎖骨へ、胸へ、腹へと手のひらを滑らせる。ベルトへと手を掛けたところで、ロヴィスコの手が重ね合わされた。引き剥がす訳でもなく、けれどそれ以上の行為を諫止するように。
「あいつには許して……俺は駄目なんですか」
「ライツとは、」
「違うとでも?」
男は喉を震わせ嗤った。そうして強張る指をロヴィスコの指へと絡め、敷布へと縫い止める。恋人のように絡んだ指は握り返されることはなかった。それは小さく棘となって胸を痛ませたけれど、初めて触れる肌に、夢のうち何度焦がれ続けたか知れぬそれに、こうして触れることが能うただけで僥倖なのだと──また一つ嗤った。
「あんな、声で……喘いでいたのに?」
「……っ」
瞠目し朱に染まるロヴィスコの頬に目元にくちびるを寄せる。
「あんな、誰が来るとも知れないところで。……酷くされるのが好きなんですか? 船長の顔……すごく、」
言い終わらぬうちに、名を呼ばれ息を飲んだ。悲鳴のように漏らされたそれに知らず肌が粟立つ。ゆうるりと顔を上げると、常であれば真っ直ぐに相手を見据える眼差しが逸らされている。羞恥に目尻を朱く染め上げて。
ハ、と一つ息を吐く。劣情を煽るそれが、今はあの男によって齎されたものではなく己に向けられていることに──自身が一層の熱を帯びる。
「おまえは……身体さえ手に入れば満足なのか」
言外に「その程度の男なのか」と失望感を滲ませるそれに、かぶりを振り否定する。
「じゃあどうすれば良いんですか。あなたの心は手に入らない。それでも昔はあなたを想うだけで良かった。医長のことは俺も好きだし、何より女性だから言い訳だって出来た。けどあいつは違うでしょう! よりによってあんな罪人に、どうしてあなたを奪われないといけないんです!」
男は堰を切ったように悲痛に叫んだ。絡めた指をきつく握り締める。手袋越しのそれが、一枚隔てたそれが、まるでロヴィスコの拒絶のように思えてならない。
力任せに握り締めていたせいか痺れたようにもどかしく動かぬ指を抜き、肌蹴られた制服へと手を掛けた。ベルトを外し、衣服の裾から手のひらを滑り込ませる。
「おまえの」
小さく囁かれた声に、びくりと男が震え止まる。俯いたまま息を詰めていると、ふと、ロヴィスコの笑う気配がした。
「おまえの手は、冷たいな」
場にそぐわぬそれに、呆けたように男は顔を上げた。恐れていた嫌忌も侮蔑もなく、ロヴィスコは常と変わらぬ慈しみを湛えた眼差しで微笑んでいた。
「……手が、冷たい人は──心が温かいそうですよ」
皮肉気に口元を歪め嗤う。
「ああ、本当だな」
「……船長に、こんな酷いことをしているのに?」
「ああ……本当だな」
くちびるを震わせ、男はロヴィスコの頬を包んだ。
「キス、しても……良いですか」
「嫌だと、言ったらやめるのか?」
「いいえ……いいえ。もっと、酷くしてしまいそうです。だから、」
何も言わないでください。そう囁いて、啄ばむようにくちづける。男もロヴィスコも、視線を絡ませたまま。角度を変え音を立て拙く繰り返す。
そうして薄く開かれたそこから、舌を差し入れた。瞼を伏せ、歯列をなぞる。口蓋を舐め上げると、ロヴィスコから鼻掛った吐息が漏れた。夢中で咥内を探る。けれど絡め取った舌先が応えることはなく、こくりと飲み込まれた唾液だけが、ロヴィスコに受け容れられた唯一のものだった。
頬を一撫ぜし、くちびるを解放する。荒く吐息が絡む。
「──今夜、だけだ。それで……諦めてくれ」
生理的な涙の膜に双眸を揺らしたまま、ロヴィスコは男を見据えた。
「それは……同情、ですか」
男は眉尻を下げ、くしゃりと笑った。
「俺を憐れんでいるんですか」
「そうじゃない」
目の奥が熱かった。嬉しいのか、悲しいのか、判らない。
「あなたの、優しさは……いつも俺たちを救ってくれたけれど……、でも、今はそれが、辛い……です」
ロヴィスコの肩口へと顔を埋め、男は肩を震わせた。
「でも、すみません。俺、ごめんなさい。……嬉しいんです。あなたを、たったひと時でも独占出来るなんて。それが──身体だけでも」
目の奥が熱かった。「身体さえ手に入れば良いのか」その問いを否定しておきながら──いざ差し出されたそれに狂喜に咽いでいる。何て、穢らわしく浅ましいことか。
恋が、愛が、綺麗なだけのものではないことなど──十代の少女でもないのだ──識っている。ただ、肉欲にまみれたそれを嫌悪する程度には潔癖で、けれど抗えない程度には男だったのだ。
「好きです」
首を吸い上げる。痕の残るそこへ、己を刻むように。
「好きなんです」
肌にくちづけを落としながら、腰へと手を伸ばす。着衣の上から触れ、撫で上げ形をなぞるように緩く握る。ひくりと震えた内腿へと手のひらを滑らせ、ロヴィスコから漏れた吐息に欲動を抑えられずに──服を脱ぐことさえ忘れて、貪るように求めた。
結局、自分もあの男と変わらないのだと気付いたときには──もう、何もかもが遅かった。
Postscript
この船員さんは6巻32話でライツを「お頭」と呼んでいた彼のイメージで。千冬さん とお話していて滾った ネタ1 & 2 が元です。