sysphere*

お題ったー 07

 心地良い気怠さに瞬きを蕩けさせながら、シーツの上手のひらへとベルカの指が絡む。
「エーコが歌ったうたにさ、月が綺麗だって……いうのがあって」
 著名な詩人の楽句だったろうか。月を愛に喩えるのだというそれは、直截的な言葉よりも時に深く情を語るのだと思った。思春期の時分には風情ある程度の印象でしかなかったものが今では。
 射し込む明い月影に浮かぶ滑らかな肌へと視線を移して、リンナは瞼を閉じた。自身であれば何に喩えるだろうと夢うつつを彷徨いながら。
「俺は……おまえといろんなもん食いたかったと、思ったよ」
 おまえが好きだったんだって、気付いたとき。そう吐息が口付けに降る。過去形のそれは今なお残るベルカの傷痕だ。あの時、何を守ったつもりでいたのだろう。命を救ってみせたとてその心はこんなにも──穿たれ貫かれていたというのに。
 リンナは絡めた指を握り身を寄せた。触れ合う温もりが鼓動を伝える。生きてまたベルカに見え傍在ることが叶えられたことを、この想いを、けれど何に喩えることが出来るだろう。
「今日も明日も、おまえと食いてーもんがいっぱいあるんだ。これからも、ずっと……おまえと」
 ベルカの喩えのらしさに口元を綻ばせて、抱き寄せる腕の中リンナは穏やかな微睡みに身を委ねた。