sysphere*
Loop 02
- 6巻32話話派生妄想小説第2話。
- ライツ→ロヴィスコ。
夜空に瞬く星を手にするように、それを翳す。長年──それこそ
己の行く先に迷ったときには、必ずこうして眺めていた。星がロヴィスコが、導いてくれるのだと──。
ひとつ息を吐いて、腕を下ろす。チャリと高く音を煌めかせ、胸元へ降る──
あれから──目覚めたライツが居たのは、
「……俺は、生きてんのか……」
茫と吐息で呟き記憶を手繰る。何が夢で、何が現実なのか──痛みと熱でままならぬ思考では、答えを見い出すことは叶わなかった。
縋るように胸元へと手を伸ばす。確かに触れたそれは、
ぎくりと握り締めたとき、小さく扉を軋ませロヴィスコが姿を現した。ましろな部屋に、ましろな制服──あの白を赤く黒く染め上げた日のことは、今も黄昏の朱陽と共に灼き付いている。
ライツは瞼を伏せ、視界を閉ざした。
「傷が痛むだろうな。すまない……麻酔が足りないんだ」
ベッドの縁で、低く声を潜ませ案じ囁くロヴィスコの、声。憶えている、この声を。これからの、言葉を。
「痛み止めにはならないが……これを、」
記憶どおり続くはずのそれが、不自然に途切れる。怪訝に辿った視線の先は──ライツの胸元、
「随分……年季の入ったステラ・マリスだな。誰か縁者に船乗りがいたのか?」
手の内のステラ・マリスと見比べながら、ロヴィスコは感嘆し口元を綻ばせた。
「大切に、磨かれているのが判る……。ライツにはもう──導く星があるんだな」
そのままポケットへと戻そうとした腕を、ライツが遮る。中途半端に身を起こしたせいで、繋がれた器具が音を立てて揺れた。
「ライツ! まだ、」
「それは……星か」
「……ライツ?」
ロヴィスコの腕を掴んだまま、俯くライツの表情は伺い知れない。宥めるように、ロヴィスコは荒く息衝く肩へと手を伸ばした。
「ああ、替えの制服から外してきた……ステラ・マリス、航海の守り星だ」
ライツをベッドに横たえ髪を梳く。潮に軋み指に絡むそれに微笑んで、空の蒼を映す眸を覗き込んだ。
「船乗りが迷わぬように……照らしてくれる」
「『……俺は船乗りじゃねえ』」
過去をなぞり乗せた言の葉は、
「……なんだ、おかしなことを言う。──おまえは船乗りじゃないか」
ライツを照らす光を導く。
「私の。アゼルプラードの……船乗りだ」
『私の。アゼルプラードの……船乗りだ』
ライツの眦を一筋の雫が伝う。本当に都合の良い夢だと──自嘲にくちびるを歪ませながら、固く瞼を伏せた。
やさしく髪を梳く手のひらに、眠りの海に誘われるまで。