sysphere*
Loop 05
- 6巻32話派生妄想小説第5話。
- ライツ×ロヴィスコ。
右から左へ、そっと指なぞる。癖の無い、手本のように流麗な字。ロヴィスコの遺したそれにもう、何度触れただろう。
『ライツの破天荒さに救われた』
初めは他者の口を介して伝えられた手記。読み聞かせられるなど、ほんのガキの頃以来だった。
クソのような場所にも、どうしてだか不釣り合いな人間が居るものだ。ゴミと棄てられたガキ共に、唄うように物語を読み聞かせていたヤツもそんな一人だった。
七人の騎士を従え、
誰がせがんだのか、幾度となく聞かされたそれ。子供心に憧れる、などと可愛らしい感情とは既に無縁だったライツは、何を思うでもなかった。ただ繰り返し耳にしたことで記憶したに過ぎなかった。
『滝を下りるなどという考えは……以前の私では思いつきもしなかっただろう』
字なんてものは、生きていくうえで特に必要性を感じなかった。
この身ひとつ。ただそれだけが生を繋ぐものだった。字が読めようが、食い物が降ってくる訳ではない。字が書けようが、雨風が凌げる訳ではない。
そう、思っていた。
『故郷を失ったことは……とても辛く、残念なことだ』
けれど。
ロヴィスコを殺し、
『だが、このような逆境のやみの中にあっても、光り輝くものが全て失われたわけではないのだ』
飾らない、素の表情を見せるもの。決して他者に悟らせることのなかった、恐れ。ライツのこと。コーネリアのこと。世界の果ての滝を下りた日のこと。新天地での様子。互いに袂を分かったこと。
そして。
『月と星とが、夜を照らすように』
そこには──ロヴィスコが、居た。
「──……イツ、ライツ!」
まどろみの中、声が聴こえた。肩を揺すり覚醒を促す声が。ライツはひとつふたつと瞬いて、ましろな制服へと焦点を結んだ。
「またおまえは勝手に
ロヴィスコの視線がライツの手元で止まる。枕のように開かれていたのは──
「日記など……面白いものではないだろう」
たしなめる響きで嘆息が降る。
マナーがどうとか、面白さだとかは問題ではない。ただ、触れたかった。真新しいインク、微かに部屋の香を移す紙、これから綴られるだろうページ。遺された欠片ではなくそのものに。
「うるせえよ。見えるところに置いとく方が悪ィんだ」
眦に滲むものを欠伸で誤魔化し立ち上がる。そうしてロヴィスコの腕を引き、机上へと組み伏せた。
だから。
乱暴に後ろ手に捻り上げ、背中から覆い被さるように犯した。視界の端に開かれたままの、手記からも目を逸らして。