おそろい
デュナンの城に滞在して二日が経ったある日。そろそろグレミオのシチューが恋しくなってきたなあ、などと遠くトランへ思いを馳せながら、ティエルはのんびりと中庭の木の上で微睡んでいた。常日頃傍に張り付いて離れない少年は、今は居ない。軍師に引き摺られるようにして浚われて行ったのは数刻前──そろそろか、と瞼を開いたところで名を呼ぶ声が微かに響いた。
ゆったりと猫の子のように伸びを一つ。そうして小さく欠伸を漏らしてから、軽やかに地へと降り立った。
「……君はいつの間に僕になったんだろう」
満面の笑みを浮かべ大きく手を振りながら駆け寄ってくるリオウ、その頭には黄色い布地が巻かれている。寂しげな首元を見るに、あれはスカーフだろうか。それを茫と視界に入れたまま、ティエルはゆうるりと自身の頭部に触れた。慣れた布地の感触がする。
「えへへ。どうですか、坊ちゃんさん!」
嬉しそうに頬を染めて、リオウはくるりと回った。明るい布地が翻る。
「それはなに」
「髪が伸びてきて鬱陶しいなあと思って、取り敢えずスカーフで留めようとして閃いたんです。こうして結ぶと坊ちゃんさんとおそろいになることに!」
そうしてもう一度、くるりと回った。
「もう居ても立ってもいられなくって、執務室の窓から飛んできちゃいました!」
どうですか、と期待を込めた眩い眼差しがティエルを射抜く。変わらぬ表情でそれを受け流した少年は、ことりと首を傾げて瞬きを一つ。
「……金冠がミスマッチ」
そう呟いて、目の前のスカーフを解いた。そのまま首元に巻き直す。きゅと音を立てて定位置に収まったそれを見やり、ティエルは頷いた。
「君はこうでなくてはね」
されるがままリオウは少しだけ名残惜し気にスカーフに触れ、けれど照れたように頬を染め笑った。揃いの格好であるよりも、こうして認められることの方がずっと嬉しいと思いながら。